なぜX線写真(レントゲン)を何枚もとるの?
こんにちは、院長の高田です。
開業から約2週間がたちました。
現時点では患者さんの数もあまり多くないので、お一人お一人に割としっかりと診察と説明の時間が取れており、今までに比べて充実した外来を過ごしております。
一方で、他の患者さんと時間が重なったりしてお待たせした患者さんに関しては大変申し訳なく思います。ただ私を含めてスタッフ一同の動線もスムーズになってきておりますので、また何かお困りごとがあれば受診いただければ幸いです。
本日は単純X線写真に関してのお話をしようと思います。
いわゆる「レントゲン写真」というものです。
X線は1895年にドイツのヴィルヘルム・レントゲン博士により発見されました。そのX線を用いて行う検査が「単純X線検査」ですが、一般の方には「レントゲン検査」といわれることも多いので、この記事では「レントゲン検査」と呼びます。
ちなみに、ヴィルヘルム・レントゲン博士はこの功績により1901年に第1回ノーベル物理学賞を受賞しています。
外科や内科の先生は、レントゲン写真を撮らなかったり、撮っても1,2枚のことがほとんどでしょう。
一方、私たち整形外科医は1つの部位について最低2枚のレントゲン写真を撮ります。また場合によっては痛くない方のレントゲン検査までしたり、首や腰に関しては6枚ものレントゲン撮影を行うこともあります。
どうして、整形外科はいつもレントゲン検査を行うのでしょうか。そして、なぜたくさんの枚数を撮影する必要があるのでしょうか。
まず、「整形外科医がレントゲン検査を多用する理由」についてご説明します。
整形外科が主に扱う臓器として、“骨”が挙げられます。
X線に対する骨の特性として、
- 高いX線吸収率: 骨は他の体組織と比較してX線を多く吸収します。このため、レントゲン検査では骨が白く映ります。一方、軟部組織(筋肉など)や空気はX線を通しやすいため、黒く映ります。
- コントラストの生成: 骨と周りの軟部組織との間には明確なコントラストが生じます。これにより、骨の形態、位置、密度などを詳細に観察することが可能です。
- 病変や異常の識別: 骨折、骨粗しょう症、骨萎縮などの骨の異常は、X線画像で明確に識別できることがよくあります。骨折では骨の連続性が途切れている部分が観察できたり、骨粗しょう症では骨密度の低下が観察されます。また、骨腫瘍においても異常な骨増殖や溶骨性変化を確認できることがあります。
整形外科が主に扱う“骨”にこのようなX線特性があるために、私たち整形外科医は普段の診療にレントゲン検査を多用するのです。
次に、「1つの部位に対して何枚もレントゲン検査を行う理由」についてご説明します。
患者さんの中には、「こんなにたくさんレントゲン撮る必要あるの?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんね。なぜ私たち整形外科医は何枚ものレントゲン検査を行うのでしょうか。
その理由は以下の通りです。
・骨が立体的な構造をしているため、1枚の写真では得られる情報が限られている
例えば、背骨はこのように複雑で立体的な形をしています。
このように複雑な形をしている骨の状態を把握するため、腰椎や頚椎では1部位に対して6枚ものレントゲン写真を撮ることも珍しくありません。
1つの部位に対して、2枚なのか、4枚なのか、6枚なのかは患者さんの症状や身体診察の結果、担当医師が疑っている疾患などにより変わります。
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1つの部位について1枚のレントゲン写真だけでは、骨折などを見逃す恐れが高い
レントゲン写真は2次元の平面写真です。透過するX線に対して、平行に骨折している場合、1枚のレントゲンでは骨折を検知することはできません。そのため骨折を疑う場合は、ほとんどの部位について最低2枚以上のレントゲン検査が必要になります。
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同じ部位の写真でも姿勢を変えて複数枚撮影することで、動的な評価ができる
例えば同じ腰のレントゲン写真でも、腰をかがめた状態と反らした状態の2枚を撮影して比較することで、本来レントゲン写真には写らない椎間板の動的な評価が可能となります。動的な評価はCTやMRIではできませんので、これはレントゲン検査の有利な点とも言えます。
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痛くない方(健側)と比較することで、より精密に異常を検出できる
骨は人によって微妙に形態が異なります。そのためレントゲン写真を撮影した場合、異常かどうか判断しづらいことがあります。そういう場合に、痛くない方(健側)のレントゲン写真と比べることで、その形がその方にとって正常なのか異常かを詳しく分析することができます。
また骨が成長過程にあるお子様の場合、骨端線といわれる成長軟骨があり、これが骨折線に見えることがあります。また、お子様の骨は柔軟性が強いため、ポキッと折れずにしなるような折れ方(若木骨折)をすることがあります。
これらの理由があるため、特にお子様の場合は痛くない方のレントゲン検査が必要となります。
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骨折のズレをより詳細に把握するため
残念ながら骨折になってしまった場合も、手術をせずに保存的に治す方法が選ばれることがあります。例えばギプスを巻いたり、シーネ(添え木)を当てたりして、ズレを防止しながら骨癒合(骨がひっつくこと)を待つ方法がこれに当たります。
その場合、週に1回など定期的にレントゲン検査を行い、骨同士のズレが大きくなってないか観察する必要があります。
ズレが大きくなる原因としては、
- しっかりと安静を保てていない
- 担当医師には体重をかけてはいけないと言われているが、体重をかけてしまっている
- ギプスなどが緩くなっている
- 骨片に付着している筋肉の収縮がある
などがあります。
これらの原因でズレが起きた場合、今後の治療に関して、手術加療を含めて再検討する必要があります。つまり適切な治療を受けるためには、定期的な診察を受けてズレが生じていないかしっかりと把握する必要があります。そのため、骨折が判明した後でも、少なくとも2方向からレントゲン検査を定期的に行うことで、治療がうまくいっているかどうかを確認することができます。
このように私たち整形外科医が何枚もレントゲン検査を行うのには理由があります。そして、撮影した一枚一枚のレントゲン検査を適切に判断するには、何千、何万という数のレントゲン写真を見てきた経験が必要となります。
ただ残念なことにどんなに経験豊富な整形外科医でも、1回だけのレントゲン検査で骨に関する全ての情報を把握することはできません。
例えば、ほとんどズレていない骨折をレントゲン検査で毎回見つけられるわけではないのです。
「レントゲン検査で骨折があるとは言えない」からといって、「骨折がない」わけではないということです。
重要なのは、「みなさんの症状が改善したか、どうか」です。
そのため最初の診察・レントゲン検査で異常がなくても、数日経っても症状が改善しない場合は、再度受診するということがとても大切になってきます。
それでは、本日のまとめです。
- 骨はレントゲン検査と相性がいいため、整形外科医はよくレントゲン検査を行う。
- 骨は複雑な形をしており、また適切な診断・治療のために、レントゲン検査は2枚以上撮影することが多い。
- 完璧な検査というものはなく、症状に応じて診察と検査が何度か必要になることがある。
また、次のブログでお会いしましょう。