頚椎後縦靭帯骨化症は、主に首の骨の靭帯が骨化(こっか:変性して骨のように固くなること)する疾患です。英語ではossification of posterior longitudinal ligament といい、OPLLと略されることもあります。
また背骨は頚椎(けいつい:首の部分)、胸椎(きょうつい:背中の部分)、腰椎(ようつい:腰の部分)に分かれます。そのため骨化する背骨の位置によって、それぞれ頚椎後縦靱帯骨化症、胸椎後縦靱帯骨化症、腰椎後縦靱帯骨化症と呼ばれます。
状態
背骨には、骨と骨の間に椎間板(ついかんばん)というクッションがあり、骨とクッションが交互に並んでいます。この構造により柔軟性が担保されて、首や背中をしなやかに曲げることが可能になっています。
しかし靭帯が骨化してしまうと、頚椎の本来の柔軟性が失われてしまい、正常に機能しなくなります。また骨化がすすむことで頚髄(けいずい)という大切な神経を圧迫することがあり、さまざまな症状を引き起こす可能性があります。
症状
最も一般的に見られる症状は、
- 首、肩周り、手の痛みやしびれ
- 首の動かしにくさ
などがありますが、進行すると、
- 手足の筋力低下
- 手の細かい動作がしにくくなる(ボタンの掛け外し、お箸、字を書くなど)
- 歩行しにくさ
- トイレが不自由になる
などの症状が出現します。
そのため重症化すると、生活の質を大きく低下させることがあります。
多い患者さんの年齢層
病気が発症するのは中年以降、特に40〜60歳で発症することが多いですが、ご高齢の方でも転倒などを契機に発見されることもあります。また男女比では2:1と男性に多いことが知られており、糖尿病の患者さんや肥満の患者さんに後縦靱帯骨化症の発生頻度が高いことが分かっています。頚椎後縦靭帯骨化症は比較的まれな病気ではありますが、特にアジア地域での発症率が高いと報告されています。
原因
頚椎後縦靭帯骨化症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、複数の要因が関与して発病すると考えられています。性ホルモンの異常や、カルシウム・ビタミンDの代謝異常、老化現象など様々な要因が考えられます。家族内での発症が多いことから遺伝的要因が関与していることが示唆されています。また、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病が関連している可能性もあります。
治療法
頚椎後縦靭帯骨化症の治療は、症状の重さと進行度によって異なります。
初期段階では、頚椎カラーの装着、薬物療法や物理療法、リハビリテーションが有効です。これらの方法では症状の進行を遅らせ、痛みを管理することが主な目的です。
しかし、神経への圧迫が強い場合や症状が悪化している場合は、手術による治療が必要となることがあります。手術では、神経の圧迫を解除するために脊柱管という神経のスペースを広げることで、症状の改善を目指します。もともとの頚椎のアライメントや骨化の程度により、固定術(人工物や自分の骨を使って、骨を固定すること)が必要になるケースもあります。
有効なリハビリテーション
すでに頚椎後縦靭帯骨化症と診断された方に対してのリハビリテーションは、主に関節の可動域訓練や運動運動機能訓練、立位訓練、歩行訓練などが挙げられます。これらのリハビリテーションで日常生活動作が改善すれば手術を避けられる方もいらっしゃいますし、手術後の機能回復のためにも重要です。
意外かもしれませんが首への直接的な運動に関しては、ストレッチや筋力訓練行うことで、頚髄への負担を増やす可能性があるため、一般的にはすすめられません。
ただ後縦靭帯骨化症というのは、ある意味では“体質”の問題でもあるので、骨化を完全に止めることは困難です。そのため、リハビリテーションに通いながら自宅でのエクササイズを習得し、リハビリテーション終了後も自宅で安全に行えるエクササイズを続けいていただくことが望ましいです。
日常生活で気をつけること
頚椎後縦靭帯骨化症の患者さんは、首に負担をかけない生活習慣を心掛けることが大切です。例えば、長時間同じ姿勢でいることを避け、適切な枕を使用して睡眠を取る、定期的に軽いストレッチや運動を行うなどが挙げられます。また、体重管理や健康的な食生活を心がけることも、症状の悪化を防ぐ上で重要です。
また頚椎のレントゲン検査を受けていない場合、頚椎後縦靭帯骨化症があっても診断されていないこともよくあります。そのような方の場合、転倒などのごく弱い外力により急に麻痺の発生や憎悪を来すことがあります。
そのため定期的に通院したり、日頃から転倒しないように気をつけるなどの対策が必要となります。また転倒防止のために自宅の改修を行う方もいます。