リウマチ性脊椎炎
はじめに
リウマチ性脊椎炎は、関節リウマチの炎症が背骨に起こる病気です。もともと関節リウマチは、手や指、足、膝などの四肢の関節に炎症を起こすことが多いです。しかし背骨にも関節があり、ここに炎症がおこるとリウマチ性脊椎炎になることがあります。また、背骨の中でも首(頚椎:けいつい)に起こることが多く、背中(胸椎:きょうつい)や腰(腰椎:ようつい)では炎症を起こすことが少ないといわれています。腰(腰椎)や骨盤で炎症を起こす場合には、強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん)という別の病気も念頭に入れる必要があります。
リウマチ性脊椎炎の患者さんは、首・腰・背中の慢性的な痛みや硬直感を感じることが多く、日常生活に支障をきたすことがあります。なかでも首に病変ができた場合には、命にかかわるケースもあります。この病気は、特に中年から高齢者に多く見られ、女性に多い傾向があります。
以下に、リウマチ性脊椎炎の主な特徴や治療法について詳しく説明します。
症状
リウマチ性脊椎炎の主な症状は、背骨や首、腰における持続的な痛みと動かしにくさです。特に朝起きたときや長時間同じ姿勢でいるときに強くなりがちです。
以下のような症状が見られることがあります。
手の症状
脊髄(せきずい:脳からつづく重要な神経の束)の圧迫により、手のしびれや痛みが出ることがあります。また巧緻運動障害(こうちうんどうしょうがい)といって、手の細かい作業がうまくできなくなることがあります。
足の症状
脊髄の圧迫により、足のしびれが出ることがあります。また圧迫の程度によっては歩行障害(まっすぐ歩けない、ふらつく、杖なしでは歩けないなど)が出現することもあります。
しびれ
脊髄の圧迫により、手足のしびれが出現することがあります。
首や腰の動きにくさ
背骨周りの関節が変形しいたむことにより、首や腰、背中の動きが制限され、動かしにくいと感じることがあります。
その他
膀胱直腸障害(ぼうこうちょくちょうしょうがい:便が出なかったり、逆に漏れたりする)や、呼吸障害などの重篤な症状を引き起こすことがあります。
状態
関節リウマチは関節に炎症をきたす疾患で、リウマチ性脊椎炎は背骨周りの関節にその炎症が生じる状態です。この炎症は、関節や周囲の靭帯の損傷を引き起こし、最終的には関節の変形や機能障害をきたすことがあります。リウマチ性脊椎炎は慢性疾患であり、症状は長期間にわたって続くことが多いです。
原因
リウマチ性脊椎炎は関節リウマチの患者さんに起こります。関節リウマチの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、免疫系の異常が関与していると考えられています。通常、免疫系は体を守るために働きますが、関節リウマチでは免疫系が自分自身の体の組織を攻撃してしまい、炎症が生じます。
以下は、関節リウマチの発症に関連する要因です。
遺伝的要因
リウマチ性脊椎炎は遺伝的な素因が関与しているとされ、家族にリウマチ性疾患を持つ人がいる場合、発症リスクが高まります。
環境的要因
感染症や喫煙、特定の化学物質への曝露などが、リウマチ性脊椎炎の発症に関与している可能性があります。また、ストレスや出産、ケガなどをきっかけに発症することがあります。
経過
リウマチ性脊椎炎は、慢性的に進行する疾患であり、症状は時間とともに悪化することがあります。初期には軽い痛みや硬直感が中心ですが、病気が進行するにつれて、以下のような経過をたどることがあります。
初期
軽度の腰痛や背中の硬直感が現れることが多いです。全身のこわばりや倦怠感などの症状が現れることがあります。この段階では、症状が日によって異なることがあります。
進行期
脊椎や関節の動きが硬くなります。また脊椎の可動域が制限され、手足のしびれや、使いにくさを感じることがあります。そのため、食事などの日常生活動作が難しくなることがあります。
末期
歩行障害や、膀胱直腸障害がおこり、日常生活が著しく制限されます。場合によっては、息苦しさを感じるケースもあります。このような症状が出現する場合は、手術加療が必要なケースが多くなります。
必要な検査
レントゲン線検査
脊椎の状態を確認し、関節の変形や不安定性、骨の癒合している場所やその具合を調べます。
CT検査
骨の形態や、関節の破壊像を確認します。
MRI検査
画像で得られる信号変化により、軟部組織や脊髄の詳細な状態を確認するために使用されます。脊髄の圧迫の程度や関節破壊の程度などをより詳しく評価できます。
治療法
薬物療法
抗炎症薬(NSAIDs)や免疫抑制剤、DMARDs(疾患修飾性抗リウマチ薬)を使用して、炎症を抑えることが一般的です。生物学的製剤と呼ばれる薬剤も効果的であり、必要に応じて専門家の診察を受ける必要があります。
リハビリテーション(理学療法)
理学療法士によるリハビリテーションが推奨されます。運動療法やストレッチングが、痛みの軽減や関節の柔軟性の維持に役立ちます。
手術
重度の症状がある場合には、手術による治療が検討されることがあります。ただ背骨まわりの手術であり、決して簡単な手術ではなく、合併症も重篤なものが多いです。しかし上の「症状」のところでも触れたように、時として呼吸障害を起こし命に関わることもある疾患ですので、主治医の先生と一緒に手術のメリットとデメリットについて相談し、納得して手術を受けてください。
有効なリハビリテーション
運動療法
関節の柔軟性を維持するために、軽いストレッチや有酸素運動が推奨されます。これにより、関節の硬直感が軽減され、全身の健康状態も向上します。
水中運動
水の中で行う運動は、浮力が働きますので、関節への負担を軽減して筋力を鍛えるのに役立ちます。また、心肺機能を向上させるさせる働きもあります。水中でのウォーキングや軽い水泳が効果的です。ただし心臓への負担も懸念されますので、医師と相談の上、行うようにしてください。
姿勢矯正
姿勢矯正は、リウマチ性脊椎炎の患者にとって非常に重要です。悪い姿勢は、関節に余計な負担をかけ、症状を悪化させる原因となることがあります。以下のような姿勢矯正の方法がリウマチ性脊椎炎のリハビリテーションに役立ちます。
正しい座り方をする
背中をまっすぐに保ち、腰をしっかりと支えるような椅子を使用することが推奨されます。長時間座る場合は、定期的に立ち上がって体を伸ばすことが大切です。
寝る姿勢の改善
背骨の自然なカーブを保つために、適切な硬さのマットレスや枕を使用することが推奨されます。特に、仰向けや横向きで寝るときに、背骨がまっすぐになるように意識して、特定の部分に負担がかたよらないように気を付けましょう。
家でできる自宅エクササイズ
リウマチ性脊椎炎の症状を和らげるためには、自宅でできるエクササイズを継続的に行うことが重要です。以下に、簡単に行えるエクササイズをいくつか紹介します。
背骨のストレッチ
背骨の柔軟性を維持するために、仰向けに寝て膝を曲げ、ゆっくりと左右に倒すストレッチが効果的です。また、四つん這いになり、背中を丸める「キャットカウ」ストレッチも有効です
軽い有酸素運動
ウォーキングなどの軽い有酸素運動を定期的に行うことで、関節の柔軟性が保たれ、全身の健康状態も向上します。これらの運動は、無理のない範囲で行い、痛みが増す場合はすぐに中止し、ご相談ください。
呼吸エクササイズ
深呼吸を意識することで、リラックス効果が得られ、胸郭や背骨の可動域を広げるのに役立ちます。座った状態で深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出すことで、胸郭の動きをサポートします。
日常生活で気を付けること
リウマチ性脊椎炎の症状を悪化させないためには、日常生活での注意が必要です。以下に、日常生活で気を付けるべきポイントをいくつか挙げます。
関節リウマチの治療をしっかりとする
原因である関節リウマチをしっかりとコントロールすることが非常に重要です。特に現在は生物学的製剤といって、新しいお薬が使われています。このお薬が効く患者さんでは、関節リウマチによる関節の破壊が抑えられる傾向にあり、関節リウマチによる手術治療は減少傾向にあります。
姿勢を意識する
いつも正しい姿勢を保つよう心がけましょう。悪い姿勢は関節に負担をかけ、症状を悪化させる可能性があります。座っているとき、立っているとき、横になっているときの姿勢に注意を払いましょう。
重いものを持たない
重い荷物を持ち上げたり運んだりすることは、首や肩、腰などに大きな負担をかけます。できるだけ避け、お家族にサポートをお願いしたり、重い荷物は宅配を頼むなどの工夫をしてみてください。
定期的に体を動かす
長時間同じ姿勢でいることは、関節の硬直を引き起こす原因となります。仕事中やテレビを見ているときなども、定期的に立ち上がって手足や背筋を伸ばすようにしましょう。
無理をしない
痛みや疲れを感じたときには、無理をせずに休むことが重要です。無理をして動き続けると、症状が悪化する可能性があります。
最後に
リウマチ性脊椎炎は、日常生活に大きな影響を与える可能性のある疾患です。しかし、適切な治療とセルフケアを行うことで、症状をコントロールし、今の生活を維持したり、生活の質を向上させることができます。医師や理学療法士と連携して、自分に合った治療法やエクササイズを見つけ、日々の生活に取り入れていくことが大切です。また、リウマチ性脊椎炎の進行に伴って体の状態が変化すると、今まで通りの生活が送りづらくなることもあります。ご家族や友人とのコミュニケーションを大切にし、周りの方や行政からのサポートを受けながら、無理なく生活を続けていくことも重要です。